「愛って言葉はね」









「にゃんじょう〜」
「ふにゃけた声を出すな馬鹿者」

ここは南条のマンション。窓からは町が一望出来る高い位置に部屋はある。
そしてここはそのマンションの一室、広めのリビングに大きめのソファとテレビが一つ。あまりごちゃごちゃした配置を好かない南条らしい部屋ともいえる。
そしてそのソファの上に大の男が二人。
きちんと座ってテレビに見入る南条と、それに先程から鬱陶しい程に絡みつく上杉。
なんというか、完全に日常風景なのだが。

「だってだって」
「子供か貴様は」
上杉は少し拗ねた声を出すと、南条の肩に思いっきり頬を擦り付ける。南条はそれをチラリと見ると、また直ぐにテレビに目を戻す。
「だってなんじょ、オレ様達ひっさしぶりに会えたんすよ?なんじょは嬉しくないの!?」
上杉はその独特の目つきをもって南条の目を覗き込んだ。
南条はその射るような目線に少しだけ息を飲んだが、「あまり近寄るな」と一蹴すると、上杉の顔をぐい、と押しのける。上杉がすぐさま非難の声をあげたがそんな事は知った事ではない。
「なんじょ、なんか怒ってるの?」



なるほど、的確な答えだ。



上杉が少しだけ不安そうに南条から離れる。

正直、南条は自分はずるい人間だと思った。

何より上杉が自分が好きなのを知っている。何より上杉は自分を大切にするのを知っている。そして、自分はその想いに応えたつもりだ。方法は、少し屈折しているかもしれないけど。

南条は、それ以上に上杉はずるい人間だと思っている。
いつも南条に向かって「愛してるよなんじょ」だとか「南条が一番好き」だとかそんな歯の浮くようなセリフを言ってくるくせに、いつだって上杉は肝心な所で鈍感なのだ。
だから、イライラする。



「やっぱ・・・怒ってる」
上杉は、少しだけ声のトーンを落として目を細めた。
「だとしたらどうだと言うんだ」
「あー。なんかそのセリフ昔よく投げかけられた覚えがあるっすー」
上杉はますます落ち込んだ風に肩を落とした。
上杉が落ち込むのも当然、南条は自分の持てる全ての感情を捨てて淡々とセリフを投げかけているからである。


「ねえなんじょ・・・怒らないでよ・・オレ様、悪い事したなら謝るっすから・・」
「何が悪いかもわからず詫びられた所で俺は何も感じないがな」

途端、ス、と上杉の手が伸びてきた。細くて長い、しかし、しっかりと男性のものであるそれは、最大級の優しさを持って、南条の頬に触れる。
「南条・・・」
そんな声を出して俺が直ぐに落ちると思ったら大間違いだ。と南条はまた冷たく上杉を見る。ビク、と上杉が小さく震えるのがわかった。

ふと、昔の事を思い出す。
上杉は自分が好きだといつも明るく声をかけてきたが、ふとした南条の一言に過剰なくらい反応し、嬉しがり、傷つく。もっとも、自分の言葉に傷ついていると気づいたのはかなり後になってからだが。そのぐらい、上杉は感情を隠すのが上手い。

少しやりすぎたか・・。と南条は上杉をチラリと見る。上杉は真剣な目でこちらを見ていた。こちらの一挙一動を見逃すまいと、その目をしっかりと開けて、南条を見ている。

「少しだけ、ヒントだ」

南条は、そう言うと自分の頬に添えられた上杉の手をゆっくりと取った。上杉は驚いた様子でそれを見ていたが、言葉を発する事なく南条の動きを見ていた。

ガブ

「いで」

南条は、突然上杉の指を口元に持ってきたかと思うと、その指を噛んだ。
上杉は目を白黒させて指を見る。跡がつくほど強くは噛んでいないが、その行動の意味がまったくわからない。何の理由があって自分の指を・・

「あ!!!!」

上杉が急に大きな声を上げる。南条は、それと同時に上杉に背を向ける。
突発的な自分の行動に、少しやりすぎたか、と耳を朱に染めた。

「ごめん、南条オレ全然気づいてなかった!」
上杉は、急いで、自分の指にはまっていた指輪を取った。その指輪をポイっと軽々しく床に捨てると、南条の背中に謝り続けた。
「気に入っているのだな、その指輪」
南条はその指輪を以前見た事があった。それは、上杉が自分のファンの女の子から貰ったシルバーアクセサリーだった。その女の子は熱狂的な上杉のファンらしく、上杉の好みのブランドを熟知していたのである。
なかなか値段のはるそのブランドは、そうそういつも買えるものではなく、そのブランドの新製品を貰ったと上杉はよりによって南条にその指輪を自慢してしまったのである。
その時南条は当然のごとく気に入らない顔をしたが、その時はそれまでにとどめておいた。
上杉の指には、自分と上杉しか持っていない指輪が光っていたから。
自分が女々しい人間であることは重々承知しているが、その指輪がはまっている限り、なんのブランドだか知らないが、その価値は大した事はないと思っていたので。

しかし、今日は、その指輪が堂々と上杉の指を飾り、その代わり自分達の指輪は上杉の指には存在していなかった。



「ごめん、ごめんってば南条。ホント、ごめん」
「別に」


上杉は溜まらなくなり、南条を後ろから抱きしめる。
南条の匂いがふわ、と漂い、こんな状況にも関わらず思わずその居心地の良さに目を閉じてしまう。
確かに自分が悪いのだが、その自分の行為にこんなにも可愛い嫉妬をしてくれる南条が、どうにもこうにも愛しい。



「南条、好き・・・」
「ちょっと待て、どこをどうしたらそういう結論になるんだ」
南条は後ろから絡み付いている上杉の腕を振り解こうと身じろぐ。
「だって、南条ほんと可愛い。ほんと好き」
「っ!!誰が可愛いんだ!離せ!!」


拙い言葉で自分への愛をささやく上杉を、南条は躍起になって引き剥がそうとした。可愛いという言葉が自分に使われるのはどうしても慣れない。慣れたくも無い。


「南条」


でも、そんな抵抗も、
自分の名を耳元で囁かれてしまってはそこで終わりである。

「南条、ごめんね」

上杉が、南条の耳元で囁く。耳に吐息がかかる。南条は、体を小さくした。

「好き」

南条を抱きしめる腕の力を強くする。

ああ。だからお前はずるい人間だと言うんだ。俺なんかよりも。ずっと。

ふと、上杉が体重をかけてくる。南条はいきなりの行動に思わず傾いてしまい、ヤバイと思った時には既に遅く、完全にソファに押し倒される形になっていた。

「ちょ、ちょっと待て上杉」
「待てない」
「落ち着け上杉」
「南条にあんな可愛いヤキモチやいてもらって落ち着けるわけない」
「上杉」
「黙って」

尚も続けようとする抵抗の言葉は、上杉の唇によって塞がれた。酷く優しい口付けに南条の意識は飛んでしまいそうになる。なんとかこらえよう、こらえようとしても、次第に深くなるその口付けに、もう何がどうでも良くなってしまいそうな自分がいた。

「上・・杉」
口付けの合間に途切れ途切れに名を呼ぶ。上杉は真っ直ぐに南条の瞳を見つめる。
「ソファじゃ、イヤ?」
上杉は子供っぽくそう尋ねる。さっきまで怖いくらいに大人の表情だったのが、少しだけ、幼くなる。
「当たり前・・・だ・・・」
南条は目を逸らして、上に載っている上杉をどうにかどけようとするが、力が上手く入らない。
「いーじゃんいーじゃん。オレ、もう待てない」
「馬鹿者、こんな所で盛るな・・・・ッ」

上杉はそっと、南条の服の下に手を入れる。もうここまで来てしまえばあとはなだれ込むだけ、と胸の中で小さくガッツポーズをする。
「やめっろと言っているだろうが・・・・。・・・・・ッ!!」
上杉の手の動きに、南条の体が小さく跳ねる。本当はこんな所で行為に及ぶのは本当に気に食わない、気に喰わないのだが・・・
「南条・・・」
上杉は、南条の首元に顔を埋めると、にっこりと微笑んだ。



「オレの「愛してる」を聞けるのは、南条だけだから」
南条は、その言葉を聞き、負けた、と目を細める。





『え!?マジっすか!?これみーんなオレ様へのプレゼント!?』


ふと、テレビから、とてもとてもとても聞き覚えのある声が聞こえた。
上杉は、その声を聞くと、ピタ、と動きが止まる。


『そうなんです!今日はブラウンのデビュー一周年というわけで、この番組のレギュラーの皆からプレゼントですよー』
『うっわー!すっげ!』
『そしてお祝いのファックスやメールもたっくさん来ています。どう?ブラウン』
『わー!もう皆最高!可愛いファンの子達の熱いメッセージ、嬉しいッスよ!皆、愛してるぜーーーー!!!!』



「・・・・」
「・・・・」



『喜び一杯ですねー!』
『そりゃあもう!あ、もちろん花沢アナの事も愛してるっすよ!』
『ふふ。ありがとうございます。さて、というわけでデビュー一周年記念という事で、・・・・』



「・・・・」
「・・・・上杉」


上杉の顔に、一筋の汗が流れる。
南条は、これ以上ない、冷たい笑顔を顔に貼り付ける。


「言い訳は無用。俺は夕飯にでも行くか。一人で」
「ぎゃー!!南条!そりゃないっすよーーー!!」


無理やり上杉をソファから跳ね除け、南条は立ち上がった。上杉はその南条の腰に縋るように半分泣きそうな声で訴える。

「にゃんじょうーーー!!」
「ええい、ふにゃけた声を出すんじゃない!馬鹿者!!」



なんとも、平和な。







fin



ごは。やっとかけました。遅くなってしまって申し訳ありません!
この小説は24000ヒットで傷薬宝玉さまにリクエストをいただきました。
キリリク内容は「上杉ファンの女の子に嫉妬する南条」でした。
い、いかがでしたでしょうか?なんていうか嫉妬する点が非常にあいまいというか微妙というか・・・。

きちんと嫉妬っていうのがあらわせられなかったような・・気が・・・します。アバー。


傷薬さま、キリ番踏んでくださってありがとうございました!
数少ないペルソナ仲間として、これからも仲良くしてやってくださいませ(土下座)



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