うたごえ
「あーもうお腹空いたぁー」
「ちょっとマーヤ!待ってよ。あんた一人だとまた絶対買いすぎるんだから」
二人の女の声が街角に響く。
その後ろからやれやれという表情で苦笑しながらついて行く長身の男。
「おい、俺はそこの公園で一服してるから。煙草だけ買っておいてくれ」
更にその後ろから声をかけさっさと回れ右をする長髪の男。
そしてその後ろには
「南条くーん。南条君もお昼、買うよね?」
「はい。ちょうど休憩にも良い頃合ですしね」

コンビニのドアからひょこりと顔を出し笑顔で手招きをする舞耶に、手を軽く挙げて応える南条の姿があった。

「マーヤぁ、たらことさけ、どっちがいい?」
「シーチキンマヨ」
「どっちがいいって聞いてんのよあたしは…」

良く言えば明るい、悪く言ってしまえば騒がしい二人の会話を横目に、南条は缶コーヒーを手に取った。昼食はサンドイッチにしようかそれともうららの持っているおにぎりにしようか。そんな事を考えている時だった。

『ブラウンの、ミュージックカフェー!!』


あまりに、聞き慣れた声に思わず顔をあげてしまう。店内には『ブラウン』のいつも通りのはしゃいだ声と、テクノ系の音楽が流れ出した(もっとも南条にはテクノがどんな音楽かなんて知っているわけもなかったけれど)。
そういえば上杉は確かラジオ番組を持っているとか言っていたような…

南条は思わず足を止めてその声に聞き入ってしまった。

「あ、クーレスト出てるわ。私が前書いた記事どうなっちゃったのかしら?なんか編集長に言われてダメかも知れないって思ってたんだけど」

舞耶がふらふらと店内の隅に近寄り、雑誌コーナーに自分の勤める会社の雑誌を見つけ、手にとる。
「ちょ、ちょっとマーヤ!あんたご飯は?」
「それよりこれ見てようらら!この記事!」

女性二人が雑誌に夢中になってしまった事に、少しだけ南条は感謝した。


『ちゅーわけでぇ。この俺様もついについにCDデビューとなったわけっスよ。もうこれが決まるまでには山ありーの谷ありーので色々だったんすよー。プロデューサーにワイロ送ったりさー!あ、今んトコカットしといてね。
……っあ!これ生じゃん!!なんちてー。はいはいもちろんジョーダンよ。ジョーダン。まぁ本当は賄賂に俺様の特製オリジナルヌード写真持ってったら燃やされちゃったんだけどねーギャハハ!

はいはい。まぁそんなわけで発売しちゃったわけよ!なんと初登場オリコン5位!凄い凄い!どれもこれも全てみーんないつも応援してくれてる皆のおかげです!ありがとねん。
でもでも、発売してから感想のハガキたーくさんもらったんだけど、ちょっと皆ひどくねー!?

代表して一つ読むね。コホン。大阪府のペンネーム、まーくんから。あら、どっかで聞いた名前だこと。元気かまーくんー?
話がそれちゃったっすね。戻しまっす!

えー、ブラウン様。買ったよ買ったよCD!ありがとね。すっごく楽しくって明るくってブラウンのキャラまんまって感じだったよー。そりゃ俺様がんばって作詞したもん。でも一つだけ気になる事があります。カップリングの曲、これも作詞上杉秀彦って書いてあったけど、嘘でしょ?はっきり言って信じられません!あんな冗談通じないよー?

と、まあこんな内容のオハガキがたーくさん。どばっと。ひでー!!酷いっすよ!ちゃーんと、カップリングの曲も俺様が作詞しました!!嘘ついてません!!

信じてないだろー。皆。うう、悲しいぜえ・・。というわけで今日の一曲目はその問題の曲で行ってみましょ。皆、本当なんだって!信じろーーー!!!』



そして、曲が終わった後。


「南条君、南条君。どうしたのー?」
「っうわ!!」
「あたしの顔みて「うわ」は無いでしょ「うわ」は」
「し。失礼しましたミス芹沢…」
「南条君何にするか決まった?」
「は、はい。一応…」
「どしたの?南条君、顔、真っ赤。」
「いえ、何でもないです・・・」
「ふーん?何ならかけてあげようか?ディアラマ」
「結構です…」





そうして南条達は目的の昼食を買い、コンビニから出て行った。
客がいなくなったコンビニでは、店員達が安心しておしゃべりに興じ始める。








「いや〜〜もういい声!!マルチタレントにしとくなんてもったいない!!」
「え?上杉秀彦って芸人じゃないの?」
「マルチタレントですー!」
「どっちでもいいけどさ。うーん。でもやっぱりこの歌ってとてもじゃないけど上杉秀彦が作った歌には聞こえないんだけど」
「そーお?」
「だって、あの人恋人なんていそうにないじゃん」
「えー!!わっかんないじゃんそんな事。あーでもいたらいたでショック」
「よねえ。あんたデビューした時からファンだもんね」
「うん。」
「あ、で、この曲、なんて名前なの?」
「えーと、『K』。さっき言ってたじゃん」
「ごめんごめん。でも、Kって、どういう意味なんだろ?」
「さあ?」
「案外恋人のイニシャルだったりして!寒―!」
「寒いとか言わないでよ!!ああ…でもいいよなあ…私もあんな熱烈で切ないラブソング誰かに作ってもらいたい〜」
「はいはい」



fin


というわけで。歌声でした。実際に歌わせないあたりが私らしいというかひねくれていると言うか・・。このネタは実は結構前からあったやつなんです。いつか書こう書こうと思ってて。

でもお題用の小説と言う事でそんなに長くはしませんでした。だから説明はほとんどしなかったけど・・。わかりましたよね?(笑)

南条、幸せ者なんだか不幸なんだか。

あ、ちなみに時間としてはペルソナ罰の下水ダンジョン後くらいでしょうか。恥ずかしいなあ。
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