冷たい真実
朝起きたら、やっぱりまだ夢の中のような気がして、目をこする。

重たい瞼をなんとか持ち上げてベッドのすぐ横に立て掛けてある鏡を覗く。

これが本当に自分の顔かどうかも信じられないくらいに目が腫れ上がっていて、上杉は苦笑した。

一度大きく背伸びして、無意識に手をクローゼットにのばしかけて。
はた、と気付く。

「…もう卒業したんじゃん…」

また視界が潤んでしまって、なんとかこらえようとして、
そうしたら何故我慢しなければならないかもわからなくなり、我慢する事さえやめてしまったら。

また、涙がひとすじ、流れた。



自分が愛する人は、自分の手の届く所にはもういない。昨日までは確かにこの手でいつだって触れる事が出来たのに。今となっては彼は海を隔てたはるか彼方。今ごろは何をしているんだろう?
ハンガーにかけてある制服を見ると、昨日の卒業式の情景が次々と浮かんでいる。



綾瀬がずっと泣いていて、なだめるのに大変だった。
「嫌よー。アヤセ卒業なんてしたくない!ずっとここにいたい!」
「何よ〜皆は寂しくないの?」
「アヤセ皆と一緒に居たい!」


わんわんと泣きながら彼女は、上杉が言いたくても言えなかった事を次々と口にしてじゃ皆を困らせていた。


南条は「泣きたいだけ泣かておけ」と呆れた顔で言っていた。ような気がする。


「別に今生の別れというわけでもあるまい?」

そりゃそうだけどね。そりゃそうだけど。

南条があまりにすらっとそんな事を言うものだから、上杉は何も言えなかった。ここで寂しいなんて言って泣いたら。

きっと南条は困るだろうから。

いつも通りに冗談を言いながら綾瀬をからかっていたら、藤堂がいきなり頭をくしゃりと撫でてきて、耳元で笑いながら「バレバレ」と呟いた。

やっぱなおりんには敵わないってか〜?

上杉は、気合いを入れ直してもう一度、上手に笑った。

最後のホームルームの前に誰かが言っていた。同じクラスの女子だったかどうかは忘れてしまったが。


「卒業したって、ずっとずっと友達だからね…?」


教室で抱き合って泣いていた女子たち。その光景は、確かに綺麗と言えば綺麗だったけれど。

そんな事わかってる。離れたからって今更愛情が薄れるような脆い絆じゃないと信じている。…少なくとも、こっちは想っていられる自信はある。

でも、そうじゃなくて。そんなんじゃなくて。


いくら言葉で永遠を誓ったとしても、不安を拭いさるように一緒だと泣いても。

    隣りに横たわるのは、会えないのだという冷たい真実だけ。

そんなことで駄々をこねられる程馬鹿ではないし子供でもない。
前を見るあの瞳を見てしまえばそんな言葉は飲み込んでしまえる。
それでも、
それでも側に、一緒に居たいと思う事に何の罪があっただろう?



「上杉ー?どしたの?ぼーっとして」

綾瀬に話しかけられて、上杉はふと我に帰った。そういえば昼前に綾瀬から電話がかかってきて街に遊びに来たんだっけ。顔を洗って、髪の毛を整えて、コートをひっかけて、家を出て…その間殆ど何も考えてなかったし、何も感じていなかった。

「もー、しっかりしてよね!?」
「わりぃわりぃ」
上杉は片手を軽く挙げて目の前で頬をふくらませる綾瀬に謝る。

「じゃあサ店で時間潰そっか。稲葉も来るって言ってるし」
言いながらどんどん綾瀬は前へ進んでいった。まだ目尻がほんのりと赤いのは、やはり昨日また泣いたという事だろうか。そういう所は、ほんの少しだけ可愛いかもしれないと思う。絶対言ってなんかやらないけど。

「ちょ、ちょっと待てよ綾瀬!」
上杉が追いつくと、アンタが遅いのよ、みたいな顔でにらまれてしまった。そしてふと、綾瀬が立ち止まる。その前にあったのは、小さな喫茶店。

「ここのコーヒー好きなのよねー。つい最近見つけた店なんだけどー綾瀬的に今ブーム」
「あ、俺様来た事あるぜぇ?南条が珍しく気にいって何回か…」


言って、はた、と言葉を止めた。綾瀬がどうしたらいいのかわからない表情でこちらを見つめていたから。

きっと綾瀬はわかってくれている。昨日、自分も泣いたように、俺も泣いたんだってこと。


「入ろうぜ。俺様のオススメ教えちゃる」


上杉は、ふにゃりと笑ってみせた。











くら!!暗い!!暗い!陰険!!
というわけで「冷たい真実」お送りしました。
なんか久しぶりに切ないのを書こうと思いまして。通学途中にぺけぺけと打ってました。親指の皮が硬くなったよう。

エルミン卒業の時期、という事で。描いてみました。上杉の切ない感が伝われば幸いです。
全然関係ないんですけど綾瀬と上杉仲良し説を私はプッシュプッシュです。仲良し。というか普通につるんで遊んでる。みたいな。二人とも常にケンカ腰なんですけどね。
いつかこの二人だけの話を書いてみたいです。もちろんブ南ブベースで。そこは基本で。で、綾瀬が悩みを聞くとか・・・。



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