なんでもない。普通の会話。
いつもの生活の中でふと零れた彼の言葉。
それでも、ううん。だからこそ。
凄く凄く痛い言葉だってあるんだ。


「で」
南条は先程から蒲団の上で包まって動かない上杉をじろりと睨んでやった。
「何をさっきからそんなに膨れているんだ」
南条が言葉を投げかけてやっているのだが、蒲団の上の上杉は依然として動こうとしない。シーツに包まってそれをしっかりと握って、顔を枕に埋めてしまっている。これでは上杉がどんな表情をしているのか見ることもできない。
「上杉」
南条は、嘆息しながらポン、と一つ上杉・・というかシーツの塊を軽く叩いた。
ピク。と一瞬軽く動いたような気がするが、また微動だにしなくなる。
「起きろ、上杉。・・・今日は買い物に行くと言っていたではないか」
言って、南条はふと窓の外を見る。今日は少し寝すぎてしまったようだ。もう窓から見える太陽は天高く昇っており、だらだらとした生活を送ることになど慣れていない南条は、こうやっていつまでもベッドの上で安眠を貪っている事など我慢できないのである。

「今日は買いたいものがあると言っただろう?」
南条は尚も負けずに声をかけてやる。昔ならこんな風に上杉がいじけようが何をしようが勝手にしろと家を出ていた南条が、随分と丸くなったものである。

「まったく。何がそんなに気に喰わないと言うんだ?」
南条は昨日から今に至るまでを振り返ってみる。南条も上杉もいつも通りだったし、南条が上杉を怒らせるような真似もしていない。まったくもってこの上杉の行動は意味がわからないのである。南条は駄々をこねる子供をあやすように、上杉の背中(と思われる部分)を撫でてやった。
「言わなければ・・わからないだろう?」


「カーテン」
「は?」


いきなり上杉から発せられた言葉に一瞬南条は反応することが出来なかった。上杉は未だシーツの中から出てくる事はなかったが、もう一度ぼそっと同じ単語を呟いた。

「カ、カーテン?」
「カーテン」

南条が聞き返してやると三回目の単語を上杉は言った。これではまるで会話になっていない。
「カーテンが・・どうしたと言うのだ?」
「今日、買うって言ったじゃん」
話すシーツはそう言うともぞ、と軽く動いた。あまり息がしやすい姿勢ではないらしい。声も当たり前だがくぐもって聞こえてくる。
「そうだが。だから早く起きて、買い物に行こうと言っているではないか」
「・・・」

また、上杉は黙ってしまった。
南条はとうとうお手上げと言った風に目を閉じ、次の瞬間。

「いい加減にしないか!」

怒号と一緒に、自分と上杉の間にあったシーツを、無理やり剥ぎ取ったのである。

「何すんだよ南条――!!さみーーー!!」
「知るか馬鹿者!お前がわけのわからない事ばかり言っているからではないか!」
「返してよ変態――!!」
「貴様に言われたら終わりだ馬鹿者!大体さっきから何なんだ。カーテンが一体どうしたと言うのだ」



俺様はカーテンと一緒なの!?









「はあ!!??」







今度こそ南条は、盛大に疑問符を放った。
上杉は、ぐす、と軽く涙をすすった。





南条は、こめかみが痛くなるのを十分理解しながら、上杉の方へと向き直り、丁寧に質問した。
「すまない上杉、お前の頭が悪いのは重々承知の上だが、今の会話は本当に理解できないのだが」
「南条がさ」
「・・ああ」
「飽きたって言ったのが、辛かった」
上杉はそう言うと、また軽くうつむいてしまった。南条は、上杉の深刻そうな瞳を見て、昨日の自分たちの会話を思い出してみた。
そんなに、重要な会話はしてないと思うのだが・・。




「なんじょ、何してんの?」
「ああ、もうそろそろカーテンを買い変えようと思っていてな」
「変えるんスか」
「ああ。今新しいカーテンは何色にしようかと考えていたんだ」
「へー。でも何で変えちゃうの?」
「何で、と言われてもな・・」
「別に古くなったわけじゃないっしょ?」
「確かにそうだが」
「じゃあどうして?」

「いつも一緒だと飽きるだろう?」







南条は、呆気にとられた。まさか。まさかと思っていたがこの男。

「いつも一緒だと南条が飽きるって言ったから。じゃあいつも傍にいる俺様もいつかは飽きられて捨てられちゃうんじゃないか、って思って。そしたら俺様じゃない新しい誰かと南条はまた一緒に居たいと思い始めるんじゃないかって。そしたら、俺、」



ああ。馬鹿とはこういう事を言うのだろうな。
と、南条は今更ながら目の前で涙を一杯にためながら小さく震える男を見て、しみじみとそう思ったのだった。



いつも一緒にいるから飽きる。飽きるから新しいものに変える。

『あと何回同じ言葉をこいつに言ってやればこいつは理解するのだろうな・・』


南条は苦笑しながら、上杉の顎を掴み、こちらを向かせてやった。

「上杉、よく聞け。俺は・・・」


換えがきかない「たった一つ」だって。いい加減理解しろ。









南条のキャラがどんどんおかしくなっていきますが・・。
そして上杉の頭がどんどんおかしくなっていきますが・・・!!
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