俺が望むものはただ一つ。
ずっとずっと、それだけに焦がれていた。
俺が望むものはただ一つ。
それさえ手に入れば、他に、何もいらない。
他に
何も




「うえ!?て事はなんじょ、帰って来れないの!?」
上杉は、携帯電話を手に、すっとんきょうな声をあげていた。ここはマルチタレント上杉秀彦の控え室。今、仕事の休憩時間に掛かってきた電話に上杉は不満の声を上げた。
「だって、だってなんじょ帰ってこれるって言ったじゃん!」
上杉がたたみかけるように呟くと、一呼吸置いてから声が返ってきた。誰よりも愛しいと思う、でも今この瞬間はちょっと憎らしいと思う声が。
『仕方がないだろう?・・・仕事だ』
向こうでは電話を持ちながら南条が呆れた顔をしてため息をついている事だろう。
今更、何が誕生日だと言う呆れた顔で。
「仕方ないって・・・」
上杉は明らかに不満の色を出した声でそう言うと、目を伏せてテーブルの上を見た。
その上には、今日のスケジュールが書いてある出番表。
『上杉?』
上杉は、南条の呼びかけに薄く「うん」とだけ応えた。
今日は12月31日。大晦日。
じゃあ明日は?
『すまないと思っている。だが2日には帰れるから。だから・・・』
「待ってる」
上杉は、少しだけ低くなってしまったトーンをまたいつものように高くしてにっこりと笑った。笑顔は、南条には見えないかもしれないけど。でもその分南条にはバレない事だってあるだろ?
「待ってるから。2日には一緒にいようね?」
南条に嘘ついたの、どんくらいぶりだろ?上杉はにっこりと笑ってゆっくりと言葉を紡いだ。
(なんじょ仕事なんだし、迷惑かけちゃ、ダメだ。俺のワガママでなんじょが困るのだけは、嫌だ)
「ね?」
『ああ・・・すまない。じゃあ・・・』

南条はそれから電話を切るまでに「すまない」を3回言った。
上杉はその度に「いいよ」と応えた。
久しぶりに南条に向けて強がりを言った。

今日は12月31日、大晦日。
じゃあ、今日の出番表を見てみてよ
「23:00〜23:55 振り返れ!スマルメモリアルのコーナー ゲスト」
「0:05〜   スペシャルライブ 司会」
この、不自然な時間の隙間は、誰と誰のためにできたんだろう?



「ちうわけでーーー!!今年も残すところ後10分になりましたーーー!!!会場の皆―!バリバリ盛り上がってるかー!?」
上杉が会場を見渡してマイクを人々の群れに向けると観客から熱い歓声が巻き起こった。
上杉はマイクを頭の上に掲げ、スタジオを所狭しとかけまわる。この上杉のムード作りだけは昔から変わらない。上杉がステージに立つだけで、舞台は彼のおもちゃ箱となる。その場にいる全員が、彼の騒がしいほどに元気な夢のトリコになる。
「さてさて今回このスマルテレビから生でお送りしておりますこの番組ですが!この辺でカウントダウン特設会場にいる俺様の愉快な仲間たちにつないでみたいと思いまーす!来年につなぐカウントダウンが彼らにやってもらうから!皆、盛り上がっていこーぜ!ちゅーわけで、今スマルティストパークにいる沢川くーん!」
スタジオに用意された巨大スクリーンに、中継先の画面が映し出された。最近デビューしたばかりのアイドルが画面に大きな笑顔で登場し、スタジオはまたも大きな歓声に包まれた。
今スタジオにいる人間の殆どはこの巨大スクリーンにくぎづけになっている。
上杉は、あたりをきょろ、と一回だけ見回すと、スタジオの影に入って行き、カメラの脇をすりぬけてそっとスタジオを出た。
「はー・・・なんとか、抜け出せた、か」
上杉は廊下の壁にかけられた大きな時計を見た。時刻は23時56分。上杉は、少し小走りして、廊下の突き当たりにある自分の楽屋に入った。後ろ手でドアを閉める。
上杉はそのまま畳に寝転んだ。
どうしてあのままスタジオにいなかったのだろう?そうすれば何も考えずに時が過ぎるのを待てたのに。

23時57分

上杉は大きく息を吐いた。
ふと、去年の今頃を思い出す。去年は南条も上杉も仕事で忙しくて、結局二人が会えたのは新年も過ぎて3日もたった時だった。年が明けた瞬間上杉はスタジオライブの真っ最中で、上杉の誕生日を祝う大量の紙ふぶきにまみれ、皆に笑顔を振りまいていた。
今年は、今年はそんな気にはなれない。
だって南条が言ったんだ。
「お前の誕生日が来る瞬間、一人でいろ。久しぶりに二人きりで年を越そう」
それを聞いた瞬間上杉は涙が出るほど嬉しかったのに。
大人になってお互い随分と自由が利かなくなって、会える時間も極端に減ってしまい、それでも南条が自分のために時間を割いてくれると聞いて本当に嬉しかったのに。
それなのに。

23:58分

「ウソつき」

上杉は瞼を閉じた。

今頃南条は自分に会うために必死でこちらに向かってきてくれるはずだ。
あと数時間後には会えるだろう。それだけで我慢しなくてはいけない。
我慢を、しなくては。
もう会いたいと駄々をこねる年でもないのだから。誰よりも愛しい人が自分のためにそこまでしようとしてくれた事に感謝しなければ。そしてその人は今も自分に会うために一生懸命になってくれているのだから。

それでも
それでも

23時59分

「会いたい」

上杉はつぶやいた。
一人で居るときくらいワガママになってみてもいいだろう。一人で居るときくらい自分に正直になってみてもいいだろう。どうせ、声など届きはしないのだから。

だからこそ叫ばずにはいられなかった。
届かないとわかっても。


「なんじょお!!!」






「呼んだか?」
ガチャ、と扉が開く音と共に、声が聞こえた。
上杉は、言葉も無く上半身を起こし目を見開く。そこには見間違えるはずも無い、彼が居た。いつもきちんとまとめられている髪が今日は何故か少し乱れていた。走ってきたのだろうか、息を弾ませて、少し乱暴に大きな手でマフラーをゆるめた。
上杉の目には涙が滲む。

ああ

神様

なんて、なんて・・・


「なんじょ、どうし」
「黙っていろ」


0時0分

2歩歩いて上杉に近付いた南条は、肩を少し強く掴んだかと思うと、
目の前にいる最愛の恋人に、優しく、その唇を押し付けた。









後日談として。

「でもあん時本当に俺様びっくりしたッスよ!まさか本当に南条が来てくれるとは思わなかったもん!」
上杉が、南条の腕に絡みつきながらその頭を擦り付ける。上杉独特の、南条への甘え方だ。南条はオレンジの頭を軽く叩いてやると軽い柔らかな髪はふわふわと揺れた。
「・・・?俺が来るとわかっていてあそこにいたのではないのか」
南条は少し不思議そうな顔で上杉を見る。そうすると、上杉はその視線に気づいたのか少しだけ顔をあげ、目を細める。
「・・・ちょっと、ほんのちょっとは期待してたけど・・でも、だって南条仕事だって言ってたじゃん。だから会えないと思ってたよ」
「俺が、今まで約束を破った事があったか?」
「そりゃそうだけど・・」
南条は、軽く笑って「ただ少し大人げない方法は使ったがな」と言った。
上杉は、なんだそりゃといった顔つきで南条を見つめた。すると南条の目が少し幼い光を見せ、少し悪戯そうに細められた。
「少しだけ、我侭を言わせてもらったんだ。新幹線で行っていては間に合わなかったからな。・・久しぶりに俺のセスナに乗ったが、少し酔いそうになった」

「・・・マジ?」
上杉は南条の顔に手を添えて、顔を近づける。南条は、息がかかるほどに近くに寄ると、小さく笑った。
「お前が欲しいものが何かわかったから、俺はそれを全力で届けたまでだ」

その笑顔の尊さに、眩暈すら覚える。
望んでいたものはただひとつ。

「やば・・本当に、俺、なんじょの事好きだよ」
「知っている」

敵わないと思った。本当に、この人にだけは。







fin



はいおしまい!
というわけでやとこさ出来ました上杉さんお誕生日おめでとう小説です。
なんか、だんだん誕生日のネタが無くなってきたぞ・・?(笑)なんかどこかで見たようなネタですいません。ありがちでごめんなさい。
とりあえず、睡眠さん、南条のキャラかえすぎ。
南ブなんでどうしてもキャラがおかしくなりがちなんですけどね。あは。ごめんね南条。

とりあえずお題に無理やりこじつけたのが良くわかりますよね。はい、無理ヤリです。あんまり関係あれへんがな!みたいな。


そんなわけで上杉誕生日おめでとー!ことしもいじらせてもらうぜ!


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