白い肌が、俺を見てる。

首が、意外と、ちゃんと男の首してて

でも、俺の体、とは全然違って

開かない瞼を、わざとらしく確認して


俺は、陸遜の首筋に唇を近づけた。






俺の、夢の話をしようか。


そこがどこだったかとかあんまり細かい事は全然覚えてなかったりするんだけど、でも、確か俺とお前はそこにいた。俺はいつもの服とは違って、武器も持ってなくて、お前もいつものあの赤い服じゃなかった。

お前は、部屋の中にいて、茶をこぽこぽ淹れてんだ。その横には旨そうな菓子とかもあって、俺がそれに手を伸ばしたら、お前が「行儀が悪いですよ」って怒るんだ。
俺は悪ぃなんて謝ってんのかはぐらかしてんのかわかんねえような言い方でまあいいやとにかく謝って。お前が淹れてくれた茶を、ゆっくり飲んだ。それがなんかもうどうしたらいいのかわかんなくなるぐらいの旨さで、俺が、「うまいな、これ」って言うと、お前、どうしたんだってぐらい慌ててさ。「そんな事ないですよ普通ですよ」ってあんまり早口になるもんだからちょっと噛んでるんだよ。普通ですよってあんま言えてないんだ。俺が笑うとお前、なんか、やっちまったーみたいな顔して俯いてさ。俺、なんか申し訳なくなって、もう一回、言ったんだ。「うまいな、これ。陸遜」って。

そしたら、お前も、
「ありがとうございます。甘寧殿」

って。
その、笑顔が。


俺は、どうしようもなく、






「っ・・・・!!」

血の海の中で白昼夢みたいに意識がぶっとんでた俺は、そこで急に我に帰った。小さくあたりを見ると、先程から状況はまるで変わってなくて、散らばる肉片が、やたら綺麗な赤をしてたりして、腕の中の陸遜は相変わらず目を開けてはいなくて。
俺は、力をこめた。陸遜の体がよりいっそう俺の体にくっつくけれど、嗅覚が麻痺しちまってるのか、陸遜の匂いは感じ取れなかった。埃っぽい土の匂いと、血の匂いしかしないんだ。

陸遜が寝てるときにしかこんな風に抱きしめる事が出来なくて。目を閉じているのを確認しないと陸遜を引き寄せる事も出来なくて。俺ってこんなに女々しかったか?

陸遜が気を失っているから。でなきゃこんな。
俺は陸遜の首筋についた赤い跡を見つめた。今つけたばかりの俺の跡。

こんな時にでなきゃ抱きしめられない。
陸遜が、こんな目にあった後だっていうのに、陸遜を抱きしめてるこの体は素直に喜んでる。

「俺、サイテーだ・・・・」

言いながら、もう一度、今度は胸の辺りに赤をおとす。


唇は、やたらと乾いていた。







その後俺は陸遜を抱いて城へと帰った。陸遜はきっと事を荒立てるのを嫌うだろうと思い、誰にもその事は伝えなかった。コイツがどうしてあんなところにいたのか、どうしてあんな輩に襲われることになったのか、疑問はいくつもあったが、まずは陸遜の体の手当てをする事が先だった。

服を簡単に払い、綺麗にし、傷を水で洗い、薬を塗っていった。その間も、自分がつけた陸遜の体の無数の赤い跡を目にして吐き気を催した。陸遜が目を覚ましたら、なんて説明すればいいのか、そんな事ばっかりで頭がぐるぐるしてる。そればっかりだった。



一通り処置を終えた俺は、少し自分を落ち着けようと、部屋の外にでた。まだ目を覚ます様子もない。しばらく寝かせておけばいいだろうと思って。

外の空気を吸いに暫く部屋を離れ、少し時間を過ごした。その間になんかやたらたくさん人から話しかけられた気がするけど、まったく覚えてない。子明に鉢合わせる事が無くてよかったな、とは思う。アイツは俺の事、本当に見抜くのが得意だから、今顔をあわせたら絶対に陸遜の事ばれちまうと思ったし。



少し時間がたち、大分事態を冷静に受け止められてきた俺はそろそろ部屋に戻ろうかと思い、俺は来た道をもどって行った。

そして、どうしようかなと頭をガシガシと掻きながら歩く俺の目に飛び込んできたのは、よろよろと壁に手をつきながら頼りなく歩く陸遜の姿だった。
俺は心臓辺りが寒くなるのを感じる。

陸遜は青い顔でなんとか歩いていると言った様子で、その眉はひそめられ、瞳からは今にも涙がこぼれそうだった。
そして、膝が、かくんと折れ、倒れそうになる。俺は何も考える事なく、陸遜の方へと走った。

「陸遜!!!!!!」

「!!!!!」


俺は思わず陸遜をこの腕に抱きとめた。チリンと鈴の音が軽く響いた。


心臓が、一気に悲鳴を上げる。鼓動がドクドクと早くなる。まだ心の準備もできていないというのに。陸遜に対する説明の言葉も謝罪の言葉も出てこない。陸遜はゆっくりと顔をあげる。

「陸・・・・遜・・・?」


陸遜は、目を細めた。
そこには、俺が欲していた、誰よりも会いたかった。誰よりも愛しい、
その、姿が。


「・・・か、・・ね・・・どの・・・」


陸遜は声にならないような声で俺の名前を呼んだ。俺はどうする事もできず、至極真剣な顔で陸遜を見つめている事しか出来なかった。抱きとめたはいいが、ここからどうしたらいいのか皆目検討もつかない。こんな事さえなけりゃとっくに俺は自分の気持ちを話していたのに。

早く。
早く伝えたいのに。

でないと俺の鼓動がお前に聞こえてしまう。
でないと俺の不安がお前に伝わってしまう。
早く。早くお前に伝えたかっただけなのに!!!


そして、陸遜はどこからそんな力出てくるんだってくらいの力で俺を押しのけた。
俺は驚くが、陸遜はそんな俺の顔すら見ていなかった。深く俯いたまま、両の腕で俺を押して、そしてよろよろと立ち上がる。心配になって手を差し出そうとしたけれども、それも出来なかった。


そして、陸遜は笑った。
ゆっくり笑った。

ああ、陸遜、その笑顔は、俺が夢でみたお前の笑顔と・・・






「ごめんなさい」



陸遜はそれだけ言うと、俺に背を向けた。そしてまたゆっくりと廊下を歩いていく。頼りない歩き方はさっきと変わらなかったが。
俺は呼び止める事も駆け寄る事も出来なかった。ただ呆然と陸遜の背中を見送る。



陸遜、泣いてた?
俺は、暫くその場から動けなかった。








そして、俺は次の日戦場に立つ。
腕に大剣を携え、一個隊の上に立つ将軍として。

しかし、俺の心はいまだ不安に満ちたままだった。
陸遜の笑顔と、涙と、「ごめんなさい」が、ぐるぐると俺の頭をまわっていた。


言えなかった言葉が、ずっと喉の奥でつかえてる。

お前が好きだよ、陸遜。


いつになったら。言えるってんだ。畜生。







ぐあ!!やっと、やっと終わりました甘寧編!!!なが、長かった・・・長すぎた・・・!!ので最後の方かなり駆け足で通り過ぎてしまいました。まあ、あくまで、陸遜が主人公だということで。はい・・・!!

というわけでそういうわけで。いよいよクライマックス(自分で言うと凄く悲しくなってくる)に突入です。陸遜にはもう少し我慢してもらう事になります。

なんか私の想像を遥かに超えて長くなってしましまいした・・。多分、第9話も馬鹿みたいに長くなってしまう予感がする。なんとか、縮め、ます・・・ハイ!!

だらだらとやっている連載ですがもう少しの間お付き合いいただけると嬉しいです。
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