陸遜の事が好きだって気づいてからはそっから先、俺はまるで病気みたいだった。
だって、マジに寝ても覚めてもアイツの顔が浮かぶんだ。重症だ。わかってる。俺はよっぽど馬鹿なんだ。だって、でなきゃ、他の女抱いてる時も。
『甘寧殿』
あぁ、声が聞こえるんだ。
アイツの顔がバンバン出てくるのをとにかくどうにかしようと思って、俺は色んな事した。女遊びも前より全然激しくなったし、前より酒もよく飲むようになった。暇さえあれば兵卒どもを集めて小さな宴会みたいなことをしていた。
「うわー,やりますね将軍!!!」
「いやいや大した事ねえって!!」
この前も、上等の女をひっかけてたから、その事が話題になってるみたいだった。偶然誰かに見られてたんだな。確かにすげえ美人だったけど、それまでだ。
「でも,かなり可愛いですよね,俺,羨ましいです」
「いいよなー甘将軍は。何もしなくたって女の方から寄ってくるんだから」
「ちょっとこっちにもよこしてくださいよー」
まあこういうのはタイミングと運だからな。捕まる時はどんどん捕まるし。
その代わりっていっちゃなんだが本当に欲しいものは絶対に捕まらないんだ。
「バーカ。お前らだって遊んでるんじゃねえか」
「将軍程ではありません!!」
「うーわ。失礼だな。この野郎!!おら!!」
「痛いです!!将軍!!いってえーー!!!」
遊んでる、っていう言葉が少しだけ、少しだけ体にささった。確かにそうなんだけど、まったく間違ってねえんだけど、
ああ、アイツがそれを知ったらどういう顔するのかな、って事は思った。
「でも,甘将軍にはいつも美人ばっかり集まるから不思議ですよねー」
「不思議ってどういう事だコラ」
「だって,なあー?」
「まあ,俺綺麗なのって,大好きだからな」
「ですよね,似合わない」
「ああん?また鉄拳くらいたいか」
「わはは!!勘弁してくださいよ!!」
「ったくよー」
「この前の女も美人でしたよね。そう言えばアレどうなったんですか?」
「んあ?捨てたよ」
「かー!!これだもん!羨ましいったら!!」
綺麗、か。どの女も綺麗だけど、絶対敵わない。アイツには。あーーやっぱ俺病気かもな。
「なんか美人が寄って来る匂いとかあるんでしょうかねえー」
「ぎゃはは,なんだそれ」
「いや、将軍の事だからあるかもしんねえぞ」
「いいなあ将軍」
「綺麗っていえば」
「ん?」
「最近将軍が可愛がってる」
「ああ・・あれか」
「ん?何?俺が可愛がってる?」
「ほら、いるじゃないですか」
「陸遜とか言う軍師・・・」
次の瞬間、俺はその兵卒に殴りかかってた。
自分ではわかってた。自分ではわかってた。でも、そう言われたくはなかった。いつも俺が遊んで飽きたら捨てるような女と、陸遜とは全然違うんだって、声に出して叫びたかったけれども。俺はどうしてもどうしても。それを認めたくなくて
突然の俺の行動に周りは驚くばかりだ。当たり前か。とりあえず、その辺にいた虫を適当につぶして「お前の頬にハチがいたんだよ。」と言っておいた。
もともと俺はあんまり難しい事考えたりするのは得意じゃない。だからいい加減俺は参ってたって言っても過言じゃねぇ。
ただでさえ複雑な事考えるのは嫌いだっつーのに、好きになっちまった理由とか、言いたくても言えない苦痛とか、そんなんばっかり頭の中をぐるぐる回って息が詰まって。
とうとう、俺は呂蒙にその旨を話した。呂蒙に引かれたらどうしようとか、そんな事も考えないでも無かったけど、今はこの病気みたいな身上をどうにかしたかった。極上の酒を手土産に、俺は呂蒙の部屋に押しかけて、ぐだぐだとどうでも良い話をしていた。なかなか切り出せねえっつの。わかるだろ?ガラにもなく緊張してんだ。
「なぁ、子明」
「なんだ?どうしたんだ。お前にしては真面目な顔して。ほら、酒でも呑め」
「なぁ子明」
「ん?」
「俺、・・・陸遜の事好きみてぇだ」
「あぁ、あの子は中々いい子だな。俺もそう思うぞ。可愛がってやってるみたいで何よりだ」
「違う…そうじゃなくて」
「何が違うんだ?」
「そういうんじゃなくて」
「・・・・興覇?」
俺は頭をぐしゃぐしゃと掻き回した。ここまで言ったんだから察して欲しい所なんだけど目の前の子明はすっとぼけた顔で俺の顔見てる。すげー言いにくい。すげー言いにくいんだけど。
「策様が大喬を好きみたいに。・・・・周瑜さんが小喬を好きみたいに。お前が奥さんの事好きみたいに」
パリン、と何かが割れる音がした。子明の手の中から酒瓶が無くなってる。子明は言葉通り目を丸くして、一度落とした酒瓶を見て、それからまた俺の方を見た。
「・・・本当か」
「こんな状況で嘘つけるかよ・・・・」
子明に全部言っちまった後はなんかちょっとだけ楽になった気がする。俺は一人でどうしようかどうにもできないなあとぐるぐる考えてたんだけど、子明はきっと俺のことも陸遜のことも同じぐらい大事にしてくれているから、だから子明はどっちの味方とも言わず、黙って俺の話を聞いてくれた。でも正直、子明が嫌な顔したり、気持ち悪いって目で俺を見なかったことに本当に感謝した。子明は凄く真剣な顔で俺の話を聞いてくれたんだ。そして、話をし終わった俺に、子明は呟いた。
「なあ、興覇」
「あんだよ・・」
「お前の気持ちは良くわかった。お前がそこまで言うくらいなんだ。よっぽど今まで我慢してきたんだろうな。・・辛かっただろう?」
やべ。
まさかそんな事を言ってもらえるとは思わなかった。
本当に本当に好きで、でも、俺、こんな性格だしこんな思いなんかした事もないし。
少しだけ視界が潤んだ気がした。俺、泣けるほど参ってたのかな、とちょっとびっくりする。
「そんな・・ああ。うん。でも。・・・辛かった。」
「そうか・・・ならば」
「ならば?」
「告白してしまえばいいじゃないか」
マジですか子明さん。
続