気が付いたらいつもいつもアイツの所へ足が勝手に動いてて
いつもアイツは俺の事邪魔っぽいみたいな顔するけど
俺が部屋に入ると、ほんの一瞬嬉しそうに笑うのを知ってる。

俺もそれが嬉しかったから
凄く嬉しかったから
必要以上に鈴の音、大きく鳴らして、アイツの部屋に走るんだ。

ぐしゃぐしゃ髪をかき混ぜると、アイツは困ったような顔をして
でも顔はしっかりと赤くて
俺はそれが馬鹿みたいに楽しくて

気が付いたら

いつもいつも




華一片 八
告白




初めて俺が陸遜を見たのは、まだアイツが正式にこの軍に入るって発表をする前だった。
そん時俺が何してたかは全然覚えてねえけど、陸遜が何してたかは良く覚えてる。少し緊張気味に歩いてて、んで、少し歩くたびに気を張った顔で辺りを見回してた。
だから、俺はアイツがてっきり迷子かなんかなんじゃないかと思って、思わず声かけちまったんだ。俺、子供とか動物とかには多分優しいし。

「あ、迷子?出口ならこっちじゃねぇけど、送ってやろうか?」

そしたらアイツ、もうむちゃくちゃ怖い顔で俺の事見て。口は笑ってたけど目は笑ってなかったな。俺、思わず1歩下がっちまったもん。今でも忘れねえよ。忘れらんねえよ。


まあ、それが、俺とアイツの出会いだったな。



第一印象はとにかく綺麗な顔だなって思った。俺が今まで抱いてきたどの女にもひけをとらないぐらい綺麗かもって、思った。アイツが女だったら俺絶対口説いてる自信がある。自慢にゃなんねえか、だよな。

でも、アイツはめったに笑わない。

いや、笑顔にはよくなってるんだけど、それは笑ってるうちには入らないだろ?なんていうか、こう、俺はアイツの心底笑った顔が見たかった。でも、何ていうか、そういうのっておかしくねえか?

おかしいんだよ。

何がって、会ったばっかりの人間にこんなに興味を持つのがおかしい。この俺が。

陸遜と初めて会った時から次に会うまで結構時間が経ってた気がする。でも、俺は次に陸遜に会った時一発でわかったんだ。いつもだったら人の顔なんていちいち覚えてねえのに。でも、会ったらすぐにあの時の軍師だって思い出した。

そんで、二回目に見た時もやっぱり綺麗だなって思って・・・。本当に、男なのがもったいないなあって、そう思ったんだ。言う事なかなかきっついし、親切な奴だとはとても言えなかったし。時々いかにも邪魔ですみたいな言い方される時もあるけど・・。
それでも、なんでか知らないけど気になってたんだ。わけわかんねえ。本当にわけわかんねえ。


だからアイツに近付いた。声かけた。俺が陸遜の笑顔が綺麗だろうなって言ったらすげえ驚いてたみたいだけど。
だって、なあ?いつもあんな嘘っぽい笑顔でさ、顔が元々綺麗なんだから、本当にアイツが心から笑ったらすげえんだろうなあ・・って思ってそう言ったんだけど・・。陸遜、驚いてたな。



まあそんな感じで俺はアイツに興味を持った。
なんだろ、おもちゃ手に入れた子供みたいに、本当にただ純粋に興味を持った。


でも、興味っていうのがなんかちょっと違うなって思ったのは、初めてアイツと戦場で一緒になった時だった。


この俺が、この俺がだぞ?目で追いかけるのがやっとだったんだ。アイツの動き。

そんで、目に見えない速さで人をガンガン殺して・・。それで、あいつ。あいつ・・。震えてたんだ。人あんだけ殺しておいて、あんだけ血浴びておいて、震えてたんだ。死体の山見て、さ。
なのにあいつは人を殺すのは嫌いじゃないって笑った。

その笑顔があんまりにも・・・アレで。なんだ。ドレだ。わかるだろ?わかんねえかな。

なんでか知らないけど。俺の中にガンガン入り込んできて、その時から今までずっと俺の心の中から離れようとしない。目を閉じても、酒飲んでても、忘れる事が出来ねえんだ。
それこそそこら辺の女抱いてる時も、人殺してる時も。だ。



俺は、その、感情の名前を知っていた。でも敢えて知らないフリをしていただけなのかもしれない。認めるのが怖かっただけなのかもしれない。



でも、確かなことと言えば、その日から何かが俺の中で何かがおかしくなった事だ。


あの笑顔が忘れられねえから、陸遜が見たくていつも部屋に押しかける。陸遜も別に嫌そうじゃねえからなんとなくそれが嬉しくて、そんな感じのが毎日続く。
ちょっと仕事で用事があって、夜しか会いにいけなかった時もあった。
でも、顔見ただけで帰ろうとする俺に「入りませんか?」って、なんかちょっとどもり気味に言われてみろよ。もう、楽しくって仕方ねえ。


でも、その時はまだ冷静だった。
俺が会いに行くと嬉しそうに目を細めて笑って。俺はアイツの事弟みたいに思ってて。可愛がるのが楽しくて。
それで良いと思ってたんだ。それが全部だと思ってたんだ。

でも






その日はとても暖かい日だった。軍議やってる途中も眠たくて仕方なくて、早く終われってそればっか思ってた。軽く寝てたら呂蒙に足踏まれたけどな。

そんで、兵士の訓練して、昼飯食って、そいで・・ちょっと時間が出来たから、陸遜に会いにいったんだ。いつもみたいに。


欠伸をかみ殺して、俺は陸遜の部屋へ向かった。眠さであんまり上手く動かない体で、扉を開けた。そしたらなんか、陸遜が机に突っ伏してたんだよな。寝てるんなら帰ろうかな、って思ったんだけど、でもなんかちょっと気になって覗いてみたんだ。

心地よい風が吹いてて、部屋の中はあったかくて。陸遜はくうくうと気持ちよさそうに寝ていた。なんだか凄く寝辛そうな体勢だな、とは思ったけど良く寝てるようなので邪魔はしないでおこうと思った。きっとその時陸遜の顔を覗き込んだのは、俺のただの気まぐれだったんだろうけど。


なんか、すげえ・・男のくせに睫毛が長くて、風が吹くたびに前髪がさらさら揺れて、
時々小さく寝言みたいな事呟いて。
それを見たら、なんだかその場からまったく動けなくなった。
そこに縛られたみたいに動けなくて。目が離せなかった。


暫く何も出来なくて。心臓の音がやたらうるさく聞こえていて、






気が付いたら、アイツの首に、唇を押し付けていた。




一瞬、自分が何をしたのかわかってなかった。ふと我を取り戻すと透けるような茶色が目の前にあって、アイツの寝息が聞こえて。自分が思っていたよりも陸遜の顔が近くにあって。


俺は自分のした事に本気でビビっちまって。直ぐに部屋から抜け出した。
逃げ出した後に、自分の部屋へ戻って・・初めて自分の唇に触れた。どうしようも無く、陸遜の顔が頭から離れない。

嫌な。嫌な予感が止まらない。


「マジかよ・・」

呟いて、頭が痛くなった。
ふわりと風が漂う。

「・・・りく、そん・・・」



嘘だと思った。嘘だと思いたかった。
でも、俺はわかっていた。





この気持ちを恋じゃないなんて、どうして言えるんだ?






気が付いたらいつもいつもアイツの所へ足が勝手に動いてて
いつもアイツは俺の事邪魔っぽいみたいな顔するけど
俺が部屋に入ると、ほんの一瞬嬉しそうに笑うのを知ってる。

俺もそれが嬉しかったから
凄く嬉しかったから
必要以上に鈴の音、大きく鳴らして、アイツの部屋に走るんだ。

ぐしゃぐしゃ髪をかき混ぜると、アイツは困ったような顔をして
でも顔はしっかりと赤くて
俺はそれが馬鹿みたいに楽しくて

気が付いたら



「やっちまった・・・」



俺はすっかりとその少年に、感情を持っていかれていた。
でも好きだからどうするってんだ。相手は男だぞ?わかってる。わかってる。けど、この感情を止める術を俺は知らなかった。
俺は混乱してた。


でも、いくら馬鹿な俺でも、簡単な事くらいはわかる。

俺がもしこの感情に任せて暴走なんかしちまって、陸遜にこの思いをぶつけちまったら、
陸遜と俺のこの関係は、確実に終わる。
簡単だろ。考えたらわかるっての。でも、俺はそんな事で陸遜との仲が崩れるのは本当に嫌だったし、

あの笑顔が俺に向けられるなら、俺の気持ちぐらい押し殺してもいいと思ってた。

だから俺は黙ってる事に決めた。アイツが俺から離れていくことを考えたら、そんな事は怖くてとても出来たモンじゃねえ。

だから、今日も俺はアイツに会いに行くんだ。陸遜が笑ってくれるから。




「りーーーくーーーーそん!!」
「甘寧殿!扉は静かに開けてくださいと何度言ったらわかるのですか!!」
「わかんねえよわかんねえよ。なあ陸遜、今日なあ・・・」



ああ、陸遜。この思いがお前に伝わる事は決してないのだろうけど、
俺はこんなにもお前が好きだ。









すーーーーーーーーーーーーーーーごい!!難産でした!!物凄く!!
甘寧の視点って本当に難しいです。陸遜の恋心(笑うところ)は時間をかけて描いているけれど甘寧のところはわずか1話で終わらせる気まんまんなのでどこの部分をどう書いたらいいのやらで本当に疲れました。しかももちろん続きます。アイター・・。
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