あたま が
ガンガン す る



目を開く前に思った事はそれだった。
頬に、冷たい床の感触が広がっている。ガンガンと襲う酷い頭痛で陸遜は段々と暗闇の底から意識を取り戻しつつあった。どうやら、陸遜はどこかに寝かされているらしい。陸遜は、目を開けようとするが、酷い頭痛がまた襲ってきて、それは憚られた。

陸遜は自分がどうしてこんな所にいるのか、と軽い混乱に陥っていた。
自分は、確か甘寧を追いかけて街にでて、そして、甘寧が結婚相手の女性と会っているのを見て、帰ろうと思って、そうしたら・・・・


(ああ。そうか・・・・)


意識がはっきりするに連れて、頭の痛みもどんどんと増していく。陸遜はその痛みに思考能力を奪われてしまい、しばらく何も考える事が出来なかった。
酷く頭が痛い。このまままた意識を手放してしまいたい。
そう思って、目を開こうとするのをやめた時だった。

「おい、コイツ起きてるんじゃねえか?」

低い、男の声が聞こえた。陸遜はそれが誰の声か知らなかった。

(・・・どうやら寝ている場合じゃ、無いみたいだ。)

陸遜は、痛みをこらえながら、どうにかゆっくりと目を開いた。

目に飛び込んだのは、黒。一瞬何が見えているのかわからなかったが、どうやら薄暗い所らしい。目を凝らして見つめると、たくさんの瓶や、木で出来た箱が見えた。

(どこかの倉庫・・かな?)

そう思って、どうにか立ち上がろうと手に力を・・・

「?」

その時、ようやく陸遜は自分の手が縛られている事に気が付いた。後ろ手でがっちりと縛られた手は微動だに出来ない。質の悪い縄か何かで力任せに縛られているため、手首を動かそうとすると痛みが走った。


(えーと、これは)

陸遜は、だんだんと自分が置かれている状況がわかってきた。痛む頭。縛られている手。薄暗い倉庫。


(誘拐か何か・・・ですかね)

陸遜が、あっけらかんと考える。と

「あ、コイツ目開けてやがる。どれどれ」

また、さっき聞こえてきた声とは別の人間の声が聞こえ、陸遜は急に強い力で髪をひっぱられた。無理やり顔を上にあげさせられて、それだけで、頭が割れそうに痛み、陸遜は声にならない悲鳴を上げた。殴られたような痛みが陸遜を襲う。


「話に聞いてはいたけど若いな・・」

「女みてえな顔してやがるしな」


陸遜がその言葉に思わず眉根をひそめると、狭い空間の中に酷く下品な笑い声が響いた。いかにも賊っぽい、頭の悪そうな格好をした男が4人、陸遜を囲んでいる。陸遜はその男達の顔を順番に見て、やはり自分の知っている連中ではないことを確かめた。

(と、いう事は・・。うちの軍の誰かが依頼した、という事ですね。やはり)

陸遜は、目を細めた。

大体想像はつく。確か、頭を殴られた時に聞いた声。あの声は以前軍議の最中に聞いた事がある。陸遜を、馬鹿にしたように笑ったあの声。

その本人はここにはいないようだが、軍議に参加していた誰かが陸遜をどこかに拉致しようと賊に命令したのは確かなようだ。

(まったく。こんな事しなきゃ私を抑えられないんでしょうか。嘆かわしいですね)

陸遜は皮肉をこめて思うが、こんな所で毒づいたところで相手に伝わるわけがない。まだ、その相手が誰なのかさえわかっていないのに。

(4人・・か・・)

陸遜は、目の前の、自分の髪を掴んで下品な笑いを浮かべている男の顔を見た。もっと高い金を払えばもう少しかしこそうな人間を雇う事も出来たんだろうになあ、と思う。戦場にいたら、真っ先に命を落とすタイプだ。

「悪く思わないでくれよ。命令でな」

「見たら、・・・わかりま・・す」

陸遜は喉の奥の方からなんとか声をだすが掠れてしまっていて、上手くいつもの声が出ない。喉が異様なまでに渇いているのを感じた。

「ハハ!なら話ははええや!!」

隣にいた男が、どかっと、陸遜の隣に座り込む。どうやら本当に誰も使ってない古い倉庫らしく、土ぼこりが激しく舞った。陸遜はその煙を吸い込んでしまい、ゲホゲホと咳き込む。

「まあ、何も命までとろうってわけじゃねえよ。明後日までおまえさんをここに監禁しておく。それだけだからな」

明後日まで・・・?

(冗談じゃない!!)

明日は陸遜も軍師として出陣するのだ。こんな所で閉じ込められている場合等ではない。
ようやく陸遜は事の大きさに気づきだした。確かに、いきなり姿をくらましてしまえば軍師としてもう呉にはいられない。明らかに、陸遜を煙たがっている者の企みである。

(そうまでして私を消したいのでしょうか・・・)

陸遜は呉軍に属する者の仲では異例の若さだと言われている。若造だなんだと馬鹿にされても、それでも何年も呉に仕えてきた者たちより才を発揮してしまっているため、どうしても陸遜を良く思わない者が出てくるのもまた事実なのだ。

しかし、だからと言って大人しく捕まってやる陸遜でもない。こんな所で、自分の人生を終わらせる気もない。

(手が使えないのが厄介ですけれども・・・)

陸遜は、冷静に相手の男を見つめた。手が使えないからと言って、陸遜を封じ込めたと思ってもらっては困る。これでも、一軍人なのだから。

と。

「・・・・ひゃっ・・!?」

急に、陸遜は自分でも驚くような声をあげた。自分の足を、男の誰かが触ったのだ。
驚いて振り返ると、がはは、と男の一人が嫌な笑い方をした。

「女みてえな声出すねえ。あんた」

あまりに不躾な言葉に、陸遜は頭にきて思わずその男を睨みつけてしまった。
男はその陸遜の態度すら気に入ってしまったのか、依然として笑ったまま、さらに口元をあげて、陸遜の足・・・膝あたりに置いた手をさわさわと動かす。陸遜は、背筋がサっと寒くなるのを感じた。

(最悪だ)

陸遜は、冷静に思った。もう男が頭の中で何を考えてるのか手に取るようにわかる。

その光景を見ながら別の男が、「お、いいねえ」などと言いながら陸遜の胸の辺りに手を近づける。

「だってよ、折角こんな美人と一緒に3日もいられるんだぜ?楽しませてもらわねえ手はないよな?」

「はは、間違いねえや」

男達は笑って、陸遜の顔を覗きこんだ。

(最悪・・・だ・・・)

陸遜は、脳内を高速回転させて、考えをひねりだそうとした。この男達は、自分を殺さないと言ったが、しかし武器は腰についている。大降りの剣を持っているもの、双剣を腰にさしている者。自分達に危険が及んだら命令など無視してすぐにでも自分を殺すだろう。

(扉は・・遠い。しかも、鍵がかかってる)

いよいよ絶望的に思えてきた。しかし諦めたくはない。

ならば、この男達のスキを見て攻撃をしかけるしかないのだが、いかんせんこちらは拘束されていて相手は四人。どう見ても逃げ切れそうにない。

「大人しいな・・・まあ、そうやってしてれば、怪我はさせねえからな」

言って、男が陸遜の服を、ゆっくりとはだけさせた。
陸遜の肌が、外気に触れた。




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