「お前、気になる人でも出来たんだな?」
呂蒙が笑いながら言った言葉に陸遜がしばし固まっていると、
「しーぃめーぇえー!!」
バタンという荒っぽく扉を開ける音と共に、姿を見なくても一瞬で誰のものだかわかる声が飛び出す。
もちろんそれは陸遜に限った事ではなく、もちろん声の主が誰だか気づいている呂蒙はため息をつきながら振り返った。
「なんだ興覇」
「何だじゃねぇよ子明!」
相変わらず言葉が意味を成していない。会話がぐちゃぐちゃで、いつも唐突。呂蒙はもうそれにも慣れているようだが。
姿なんてみなくてもわかる。
陸遜が振り返ると、そこには予想通り甘寧がいた。
ふいに、二人の目が合う。すると、甘寧は少し声のトーンを低くした。と言っても十分やかましいのだが。
「わり、仕事中だった?」
一応気を使っているらしい。甘寧は足を一歩ひいた。
「いや、別に構わんが?どうした。随分嬉しそうだな」
呂蒙が甘寧を招き入れるように、ひらひらと手招きをした。甘寧はへへっ、と笑い、大股で部屋の中心まで入ってきた。なんだかとても嬉しそうだ。
見ていて凄くわかりやすい人だな、となんとなく思う。
「あのよ。お前が欲しがってた酒、手に入ったぜ」
「なに、本当か!」
甘寧の言葉を聞いて、呂蒙がぱっと笑顔になる。甘寧も呂蒙も酒好きらしく、よく二人で夜酒盛りをしている事を陸遜は知っていた。
「偶然町で見つけてよ、今夜飲もうぜ!」
そう言って、甘寧は楽しそうに笑った。
その笑顔を見て思わず陸遜は甘寧から目を逸らす。
「よしよし。肴は俺が用意しよう」
「俺、あれがいい。この前食った」
「あぁあぁ。よし、じゃあ用意しておこうかな」
まだ夜は遠いと言うのに、二人は今宵の話で盛り上がっていた。ああでもないこうでもないと、一応仕事中であるのにもかかわらず話が弾んでいるようである。
そんな二人の会話を聞きながら、陸遜はどうしたって頭の中にずかずかと入ってくる甘寧の声に、逃げたくなってきた。
どうしてこの人の声はこんなに耳に残るんだろう。どうして…
「陸遜も飲むか?」
「っええっ!?」
急に話をふられてしまい、陸遜は戸惑った。甘寧は自分の方を見てにかにかと笑っている。
すっかりご機嫌になった呂蒙もそれに続く。
「おお、陸遜も是非飲もう。とても上手い酒なんだ」
「よし。じゃあ夜また部屋に来いよ」
まだ自分は返事をしていないはずなのに何故かとんとん拍子に話は進み、何故か陸遜はこの二人と一緒に酒を飲む事になっていた。陸遜はやはり断ろうかと口を開くと、
ぽふ
「へっへ。楽しみだな!」
わしゃ
わしゃ
わしゃ
長い指と、広い手のひらが陸遜の頭をぐしゃぐしゃと乱暴に撫でた。
また、息が出来ない。
何か言葉を搾り出すように口を小さく開けるけれども、すぐにまた口を閉じる。
眩しい、息が出来ない。
心臓が
痛い。
どうしよう
どうしよう
『ああ、俺の知り合いが『笑顔が眩しくて息が出来なくなった』とかよくわからない事を言っていたな。』
誰か、この痛みを嘘だと言って下さい。
陸遜は、自分の心に確かに感じる痛みに、ただただ動揺した。
甘寧と呂蒙の楽しそうな会話が、なんだかとても遠くから聞こえるような気がした。
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ほら、ね。
気付いてしまえば
墜ちていくのは、一瞬の事。
瞬く間に、知らない内に、取り返しのつかない深みまで。
あーあ。陸遜が甘寧に惚れたの自覚しちゃった。みたいな。
しっかしこのシリーズを書いていて思うんですけどこういうのって読んでて絶対つまらないと思うんですよね・・。ラブラブしてない甘陸でも読んでくださる方がいるのかどうだか・・・。ううーん。
とりあえず、1歩間違えば少女漫画になるので頭を悩ませます。「これって・・・恋!?」ドキン!!
みたいな。一応次の話で二人の仲は進展するはずです。はず。