ああ、きっと戦場が似合うだろうな

甘寧は漠然とそう考えて、自分の隣で酒を注ぐ呂蒙にそう言うと、呂蒙は至極不思議そうな顔をした。

「逆…じゃないのか?」
「逆?何が」

自分が質問しているのに、逆に聞かれてしまった甘寧が今度は何だか良く分からない表情をする。自分の言いたい事が上手くまとまらない。

「だから」

呂蒙は盃を傾け酒を飲み干す。甘寧は自分の言葉を待っておとなしくしている。

「陸遜に…戦場が似合うと、今お前は言ったのだろう?」

甘寧は黙って一つ頷く。

「なら、やっぱり逆じゃないか?普通皆あの子を見たら大体・・・もっと別の物を想像すると思うぞ。まだ幼いし・・・あの子は優しいから」

呂蒙が色々と言葉を探しながら陸遜について話す。
甘寧は、そんなもんかなぁと零し、空になった酒の瓶を適当に転がした。



甘寧が呂蒙の部屋から戻ってきたのは、夜もかなり遅くなっての事だった。自室の寝台にごろりと横になると、甘寧はなんとなく、なんとなくあの軍師の少年の事を思い出した。

「えーと、陸・・・陸・・」

目を閉じると、あの笑顔が頭に浮かんできた。

「そうだ、陸伯言」

自分以外の皆は、陸遜を見て何を想像するのだろうか?少なくとも自分のように戦場と連想させる者はいないのだろうか。
あの笑顔に似合うのは、なんだろう。
地面いっぱいに咲いた小さな花?澄んだ青い空?きらきらと輝く海?

「アイツ、人殺したら悲しむのかな」

甘寧は、そのまま、深い眠りへと落ちていった。




そして、彼らは戦場でまた出会う。




華一片 二
君の笑う音




舞い上がる砂埃。
時折強く葺く風
絶えまなく聞こえる、人のものとは思えない悲鳴。

目に映るのは血の赤それもその赤だけがやけに鮮やかでその赤が一回目に入ってしまうともう他の色が全てくすんで見えてしまう時々むせ返るような血の臭いや生温い風のせいで自分を失いそうになるけれどもそれでも私は肉を斬る感触とともに姿を表すその赤に目を奪われまたも私は


「お?陸遜?何してるんだ?」

ふいに後ろからかけられた声に思わず振り返ると、そこには甘寧がいた。手には甘寧の愛刀が握られており、誇らしげに鈍い光を放っていた。
彼は、あまりごつごつした鎧を好まないらしい。防具らしい防具はつけておらず、彼の体は他の鎧でその身を固めた武将よりも断然肌の露出の量が多い。

その肌に、無数の赤。

陸遜は、思わず目を細めた。まるで眩しいものを見た時のように。

「何してんの?ていうかお前って軍師じゃなかったっけ」

言いながら甘寧はカラカラと笑い、次の瞬間その手に持った刀を自分の背後に勢い良く振る。
甘寧の背後に忍び寄っていた一人の兵士は彼にその姿を見止められる事無く、声も無く事切れた。

陸遜は一瞬息を飲む。

「ええ。ちょっと、報告部隊の到着が送れているので、私が確認に」

「わざわざお前が?軍師なのに?」

「・・・・ええ。私はまだ自分の小隊も持たせて頂いてませんし。細かい動きをするのにはちょうど良いのですよ」


「それにしたってなあ」

甘寧は尚もこの細く頼り無気な少年がたった一人でこんな所にいるのが納得いかないらしく、首を傾げる。
陸遜は、その唇に微少をたたえ、剣を握る力を強くする。

「詳しい理由を話しても時間の無駄です。とにかく、私は今ここにいるのですから。戦うしかありません」


「そうだな。なんか微妙に囲まれてるし」

陸遜はチラリと横目で辺りを見る。気持ちを落ち着けて気配を
数える。

甘寧は慌てた様子も無く、なんとなく退屈そうに息を吐き出し
た。

「20・・・23人くらいですか」

「ん。雑魚ばっかりだな」


陸遜は少し腰を落とす。いつでも攻撃に移れるように。

甘寧は剣を構えようともしない。陸遜を見たまま首をこきこきと鳴らす。この余裕ぶりからして、自分の相手をするにはまだ全然足りないといったところだろう。
甘寧は、小さく口を開く。

「辛いか?」

唐突な言葉に、陸遜は一瞬自分が何を言われているかわからなかったが、どうやら自分がこの人数を相手にするのは大丈夫か、と聞いているらしい。
これは、彼なりの気遣いなのだろうか。
それとも邪魔になるぐらいならとっとと逃げるなりなんなりしてくれと暗に言っているのだろうか?

陸遜は、息を細く吐く。



ああ、この空気が好きかもしれない、と陸遜は思う。
まだ自分は戦場にそんなにたくさん出ているわけではない。他の百戦錬磨の武将達から見れば、自分はまだ半人前にも満たない人間だろう。


しかし、戦場には何か自分を変える雰囲気があると陸遜は考えていた。


剣を、握りなおし、にっこりと笑う。

「誰に向かって言ってるんですか?」

「へ」

甘寧が言葉を続けようとした瞬間、
兵士達がいっせいに自分達に向かって剣を振りかざした。




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